© 2015 NPO法人とやまの木で家をつくる会

阿折さんの自宅の前で 

居間にある使い込まれた薪ストーブはとても暖か。薪はもちろん間引きされたスギで、パチパチと木がはじける音と香りがとても心地いい。

阿折さんが丹精して育てた美しいスギの木々

枯れているように見えるのは、熊対策のためこの秋に山の奥に植えられるどんぐりの木の苗たち。阿折さんは植林する日を楽しみにしている。 

木々の命を感じながら、富山の森と共に生きる
林業家 阿折 俊正さん

 

 阿折さんの山は、富山市(旧大沢野町)吉野にある、手入れの行き届いた美しいスギ林。手塩にかけて育てた樹齢50年~60年の立山スギ2万本が、今、伐り時を迎えている。60年以上も「木育て」に取り組んできた阿折さんが、林業に魅了されたのは21歳のとき。
「こんな立派な木を育てるのが自分たちの仕事だ」という父親のひと言で林業を継ぐことを決めた。

 当時は月給が300円の時代で、スギの苗木は1本4円、1万本植えると4万円もかかってしまうため、種を蒔いて苗を育て、3年目でやっと植林できた。種は、銘木で有名だった、今は廃村になった熊野川(旧大山町)上流の小原まで泊りがけで採りに行った。植林してからも、15年ほどは下草刈り、間引き、枝打ちなどの作業を行い、最終的には約4分の1の数にする。そこまで手をかけることで、立山スギは富山の夏の暑さや冬の雪に負けない耐久性を持って大きくまっすぐに育ち、美しい森を保つことができる。

 「木が大好きだから、木のそばに行くだけで心が安らぐね。幸いケガをしたこともないし、妻が亡くなるまでは二人で山に入って夫唱婦随で木の世話をしてきたから、一本一本に思い出がある。いい木を育てることは、子どもを育てるようなもので、木を伐り出すときには娘を嫁に出す心境になるんだよ。でも、木は形を変え、山から町に移っても生き続けるからこそ、デイケアハウス『にぎやか』のみんなが森とのお見合いに来た時には、木を守り育てる大切さや思いを直接伝えることができ、とてもやりがいを感じた。

 いい縁があればまたやりたいと思うが、このまま200年、300年植えておいてもっと立派な木にするのもいいかなあとも思う」と、阿折さんの木に対する思いは深い。

 今、阿折さんは自宅の庭先でどんぐりの木(ナラ、コナラ、ミズナラ)の苗を1500本ほど育てている。熊が里に降りてこないようにするため、2008年の秋、山の奥の道路脇にどんぐりの木を1000本植える予定だ。
 たくさんの実をつける姿を思い浮かべながら、木の成長をとても楽しみにしている阿折さん。自分の体力が続く限り、木々と対話しながら、富山の山を守っていきたいそうだ。